基調講演
デザイン学からの提言


向井周太郎

 今日、産業からのデザインの効用を優先して来た経済至上主義の状況において、 成熟したかに見える科学技術文明の有り様は、「情報ネットワーク社会」の成立 という文脈の中に新しい活路を見いだそうとしています。
その新たな課題は、明らかに産業から生活へと位相を移し、 変化する現在の生産と消費の関係構造のなかに「あるべき生活のすがた」 を実現するため、改めて社会的、生活形成的なデザインへの期待が 寄せられています。
 一方、現実に即した対応に執着することで閉塞し混迷する今日の「デザイン」にとっては、新たな総合的地平における「理念」が、今ほど求められている時代はありません。そのような意味で、「基礎デザイン学」が提唱する総合の理念は、今日いっそう重要であるといえるでしょう。
 現代デザインの水脈として、グローバルなデザイン知との緊密な交流のなかで展開されてきた「デザイン学」からの提言の場を設け、次代21世紀の情報ネットワーク社会におけるデザインの新たなる課題と展望を、広く社会に訴求することを意図し、基礎デザイン学科30周年記念事業として、この記念講演会を開催することとなりました。