講演
再び基礎デザイン学の提唱
-新しいデザイン教育の必要性とその課題への展望

向井周太郎
1_____ 「デザイナーを養成するのではない。諸領域の関連性をふまえて、デザインの諸問題を追求しうる可能性に開かれた新しい型(タイプ)の人材を育成する─」とした、「基礎デザイン学」という教育理念の提唱は、社会や生活世界の在り方とデザインの明日を考えるうえで、今日いっそう重要な課題となっています。
2_____ 「デザイナーを養成するのではない」というのは、一つの逆理であり、「デザイン」をどのように認識するかは、今日なお新しい問題であると考えます。生活世界の形成、環境形成、社会形成─「デザイン」を広くそのような「形成」、「世界形成」という視座からとらえるならば、デザインのいま一つの地平がひらかれます。
3_____ 近代デザインは、原初的には、近代技術や産業による近代化の在り方を、絶えず社会的・文化的視点から問い返し、生活世界へと豊かに再編していくためのいま一つの対抗的な近代のプロジェクトであったと言えます。今日の情報社会と言われる新たな技術革命の中で、私たちの生活世界はどうあるべきか、再びデザインの革新性や生活理念の形成が求められています。「基礎デザイン学」とは、そのような形成の理念と運動として提起されてきました。
4_____ デザインは、それゆえ、単に産業や市場の問題ではなく、グローバルには新しい文明的課題であると同時に、社会的・文化的課題であると言えます。
5_____ そのような意味で、デザインとは一つの専門領域に特定しえない専門性であり、問題の関係性全体やプロセス全体の総合性に、その専門的特質があるのだと考えます。
6_____ デザインの学として、包括的な新しい「美学」の形成が必要であると考えます。一言で言えば、ECOLOGYとECONOMYの「ECO」が均衡、融和するような美意識を形成するための知の枠組みの必要性です。これは、社会的な美意識の形成としても不可欠の課題でしょう。これは、また私の現在の主要なテーマの一つでもあります。