講演
基礎デザイン学のスタンス
増成隆士(筑波大学教授)
高度な認識も、高度な行為も、一面では、分業による専門化ということなしには考えられない。しかし、他面では、全体を見、この全体の根底と、この全体の中での諸(あるいは全)部分の関係とを見る営みがなくてはならない。
このような「全体を見、この全体の根底と、この全体の中での諸部分の関係とを見る」営みは、哲学(代表例としては、ヘーゲル哲学)、Wissenschaftstheorie
、記号学などでなされている。
しかし、今日の事態へのより能動的な対応が必要である。「今日の事態」とは、身近の小さな物品から巨大な建造物にいたるさまざまなモノ、ならびのそうしたものの配置や関係を、人間がデザインすることが、かつてないレベルと規模でできるようになっていて、実際、きわめて多くのものが人間によってデザインされ、これらが人間と世界に多大の力を及ぼしている、という事態であり、のみならず、自然そのものが持っているデザイン(素粒子、遺伝子のデザイン、など)の解明が進展し、さらに、人間の手による「自然のデザインのリライト」(遺伝子操作、など)がアクチュアルなことがらとなっている、という事態である。
基礎デザイン学は、もちろん、「全体を見、この全体の根底と、この全体の中での諸部分の関係とを見る」任務すべてを担おうとするものではない。基礎デザイン学は、人間と世界の全体とその根本につい
て、あくまでも、その「構成」という切り口で、問う。その限定は、限定とはいっても、むしろポジティヴな限定である。「構成」は、「全体、全体の根底、全体の中での諸部分の関係」を規定している重要なファクターだからである。
さらに、基礎デザイン学は、認識、理解、解釈というスタンスだけの知ではなく、応用(人間と世界への制作的参画)のスタンスも強く持った知であり、そのスタンスにおいては、先行のフィロソフィア(哲学 ←
"愛-智")などとは異なる。
(講演のサマリー)